9年熟成ヴィンテージ。
ラストイヤーは2022年4月でそれはコルク留めにも印字してあって間違いないのだが、ボトリングがいつなのか明記されてなくて、おそらく2012年だと思われる。
他のグーデンバンドが10年の賞味期限で販売されているので、おそらく同じルールだと判断する。
なにより、熟成の進み具合が、相当な年月を感じさせる。
まず、グラスに注いだ時点で驚いた。色だ。
コーヒーの様だと思った。黒と茶色の中間。透き通って艷やかで僅かに赤みを帯びている。
こんなブラウンカラーはビールでは見た事が無かった。
以前に同じグーデンバンドの2016年ボトリングの物を飲んでいる。それとは色からして違う。
香りもまったく別物だ。
ベルギービールを飲み慣れていない、いや、ヴィンテージ物を飲んだ事が無い人ならばおそらく受け付けないだろう。僕も一瞬否定的な感情が芽生えた。
まず、干し葡萄の様な香りを感じた。その香りは徐々に弱まっていく。そして麦茶の様な、少し気の抜けた様な麦の香り。少し埃っぽいようないかにもヴィンテージ的なくすんだ香り。
泡は全く立たない。本当に全く立たない。
口に含むと最初は感じた事の無い香りに違和感を感じる。
ウィスキーの様なブランデーの様な、それが古くなってしまった様な、表現しにくいのだが、もしかしたら劣化しているのではと(これは明らかに僕の経験不足だが)思ってしまうような、複雑な古臭い香りを感じた。
だが、その香りは一瞬でどこかに行ってしまう。後から思えばそれこそが熟成の個性であり、五感全てで感じ取りたい、9年の熟成で醸された、儚く一瞬で消える、他には変え難い、このビールを味わう為の稀少なエッセンス。一本飲み終える前にそれに気付けたのは幸せな事だった。
飲み進めると、ランビックなどの他の個性的なビールでも同様に言える事だが、香りの個性と言うものは慣れが生じて来る。
嗅覚から味覚に意識を向けると、柔らかな酸味が支配的で、甘味は控え目。酸味が支配的と言っても熟成によりとてもとてもまろやかな柔らかい酸味を獲得している。
苦味やホップの香りはもちろんだが、全く、一切無い。
香りに関しては、相手を選ぶような厳しささえ感じる様な複雑で難解な表情を見せ、こちらはまるで試されているかのような気分にされられるが、味覚から感じる味わいは優しく、優雅で、高貴とも言える様な、そして包容力までも感じる様な、懐の深い味わいになっている。
一言で言うならば『女王』
このビールが全ての女王と言うわけではなく、このビールから受ける印象が、まるで女王の様な高貴さを持っていると言う意味だ。
僕はメモを残す時にあまり情緒的な表現は残さないのだが、このビールに関してはこんな風に詩的になってしまった。
そこからこのビールの持つ個性を感じ取って貰えればと思う。